正方形の正面はどこ?

いろいろな申請や書類作成もデジタル化しており、「印鑑は古い!」といった声の多さからも、最近は印鑑で捺印する機会も減ってきましたね。それでも印鑑を使う機会はあるわけで、朱肉も会社に準備してあります。

弊社で使用している朱肉は地元名古屋を代表する企業の一つ、シャチハタ社の標準的な製品です。まさに典型的な事務用品といった感じで、正方形の樹脂製外装でヒンジ式の蓋を開けると中に朱肉部があり、コンパクトで机の上の筆記用具入れの中に入れています。

典型的な事務用品としての朱肉

癖のない形状で、朱肉部の使い勝手など弊社の使用状況に合っているのですが、問題点が一つあります。このケースはどこから開けるのかとても分かりにくいのです。形状が正方形のため、4方向について方向性がありません。開口側には指をかけやすいようにケースの下側に凹みがあるのですが、通常利用で上から見たときにその凹みは分かりづらくなっています。回転軸側のヒンジも上手に出っ張りがなく造形されていて、こちらもぱっと見では判別つきません。唯一の手がかりは上面中央に掘り込んであるShachihataのロゴのはずですが、黒いケースなので凹凸の影が見えづらくて、開閉向きの判断のためには役立ちません。

いろいろな向きから撮影。どこが開けるところか分かりますか?

2、3回使用してみて使い勝手の悪さに我慢ができず対策を考えます。蓋の開閉動作、開ける時の指のかかり具合には問題ありません。問題点は開ける向きが分かりにくいことのみなので、その点さえ改善できれば良いのです。

100 円ショップで売っている丸シールを開く側につけることにしました。赤い小さめの丸シールを会社に在庫してあったため早速貼ってみます。おお、すごく分かりやすくなりました。しかも黒いケース外形あるに赤丸は内部の朱肉を連想させて、さりげなくこれが何であるかを示すことにもなっています。少ない労力で、使い勝手と意匠が劇的に改善した良い例です。

赤丸シールで開ける向きが分かる

製造、販売の面から見てみると、この問題点を改善するには何が考えられるでしょうか。今回のように赤いシールを購入者に貼ってもらうように同梱するのは、最も簡単な方法と思われます。開ける側に印をつける方法としては、Shachihataのロゴの位置を開口側に持ってくることもできるでしょう。他には開ける側の指かかりとなる突起を大きくする、ヒンジの形状をしっかり見せるなど、形そのものを変えることも考えられます。蓋の開け方を回転方式ではなく取り外し式やスライド式にすることもできます。

写真に撮ると使い込んであって傷だらけ

印鑑をやめるというさらに根本的な対策案もありますね。でもこれは取引先や社会通念も関わることで、自分でコントロールできませんね。

私個人としては印鑑そのものが嫌いなわけではありません。印鑑はこれまでの歴史的、社会的、文化的な点から重要なものであり、単体としても力のある造形であったり、綺麗な仕上げがあったりと物としての魅力があります。また、書類の確認という意味で、印鑑を押すという身体的な動作は意味があると思っています。サインも同じです。押印のいらない書類が増えていて、私もPCの中のPDFに記入して、そのままネットで提出などしていますが、何となく本当に書類を作ったっけ?みたいになることもあります。私にとって印鑑を押すことは一つの物事の区切りや気持ちの整理としての所作になっているように思います。

(印鑑もサインもセキュリティ上の意味はもはやなくなっているように思います。これらの技術的な面は時代に合わせて変えていくべきと考えています。)