関西万博のトイレ問題

先週末、閉会を目前にした関西万博に行ってきました。
閉会となる3連休の初日。混んでいるのは最初から分かっていたので、そこに文句を言うつもりはまったくありません。
建築、デザインの観点から色々聞くところもあったので、YoutubeやSNSで見ているだけでなく、実際に体験してみようと考えました。


改善の取り組み不足

最初に感じたのは、半年間も開催していて会期も最後になっているのに、システムの改善は少ないことです。
スマートフォンで予約する方法そのものは悪くありませんが、早いもの勝ちで瞬時の操作を求められる方法は、どう考えても万人向けではありません。時間帯を区切った抽選制にすれば、もっと穏やかで公平な体験にできたはずです。
ネットの良いところの一つは少しずつでもどんどん改良できることだと思いますが、途中で変えることにためらいがあるというか、万博協会の中でリーダーシップを取れるひとがいなかったのでしょう。

以下に書くトイレの問題など物理的な改善も、半年も開催していれば改善できるはずの問題を放置したままです。本当にひどいなというのが正直な感想です。



問題だらけのトイレ

ただ、どうしても触れざるを得ないのがトイレです。
噴水ショーが行われる場所は会場の中央奥にあり、その周辺の広場は会場のメインといえる場所です。その近くに複数のトイレがあるのですが、これが本当にひどい。使い勝手が悪すぎる。

とくに問題なのは、円形に個室を配置した外から入り中央側に出るトイレ(トイレ1)。外側から入って内側に抜ける構造で、前の人が出てきたことが分からない。普通のトイレなら、ドアが開いた瞬間に「空いた」と分かるのですが、ここではそれがない。外壁にあいた小さな穴から光るサインで空室を示しているようですが、屋外の昼間ではまったく見えません。結果、みんながドアノブを順番に試しながら「ここ空いてる?」と探す、という残念な状態に。

さらに、個室が円形に並んでいるため、外側には放射状の行列ができます。どの列が早いか分からない。各個室の前には20人ほどが並び、大混雑の会場内にトイレの列が四方八方に広がっている。万博協会の人はおかしいと思わないのかな。訪れた日は10月なので晴れてはいてもそこまで暑くありませんでしたが、夏も炎天下で20人待だったのでしょうか。雨の日は傘をさして待つのでしょうか。

入場者数が多いことも原因であり、会場中央付近にある「デザイナーズトイレ」はここまでひどくないとはいえ長蛇の列になっていることは変わりません。高速道路のサービスエリアのトイレや球場のトイレなどはよく考えられているのに対して、外観の奇抜さだけが目立ち、多くの人が効率よくトイレを利用するという基本機能を満たせていません。

私は諦めて、リングの外にある普通の建物内のトイレに避難しました。そこはごく常識的な設計で、列も短め(それでも女性用は10人以上並んでいましたが)。

これらのトイレは若手建築士を対象としたプロポーザル(設計コンペ)で選ばれたそうです。若い人たちが挑戦する場があること自体は素晴らしいと思います。いわゆる“デザイナー”の中には、使い勝手や安全性よりも外観を優先する人が少なからずいますが、建築士という職能は、どちらかといえば実用性を重視する人が多いと思います。今回のような設計になってしまったのは、プロポーザル(コンペ)という方式、から「斬新で目立つもの」が提案されやすかったのでしょう。そして採用を決める協会側にも、設計を見極める目がなかったのではないかと思います。


大屋根リング

一方で、大屋根リングを設計した藤本壮介氏の取り組みは、協会からの難しい要求(「斬新さ」だけでなく、「会場を一つにまとめる」「移動動線を形成する」といった機能的要件)に応えられていたと感じました。たしかに、工事費が高すぎる、一時的なイベントにしては規模が大きすぎる、という批判もあります。しかし建築的には、要求された機能・象徴性・体験価値に対して、的確に応答していると言えるでしょう。


実験の場

万博はたった半年間のイベントです。その意味では、実験的なデザインが集まる場所であっていいと思っています。うまくいったものも、そうでなかったものも、すべてが次への学びになり、今回のトイレのような失敗も、反面教師として意味を持つでしょう。今回の建築士の設計に関しては批判されても仕方がないと感じましたが、当該建築士自身を批判することは控えるべきです。むしろもっともっと未来の住環境や建築について挑戦的なことができる場が万博なのかと思いました。万博という形ではなくても、5年に1回ぐらいのペースで、このような未来のための体験ができるイベントがあると面白そうです。